2022/12/25 21:36

ガチャガチャと大きめの鈴の付いた 古い木製のドア 開けると
何時もの 大音響 が 襲いかかって来た。そうしてモウモウたる たばこのケムリの攻撃。週一位でかよってる 古びたJAZZ喫茶。
最初はいつも うるさいんだよな 、 年期の入った焦げ茶色安物のビニールソファーに 腰を下ろした。周りの煙に負けず フーと一服。そうして いつも持ち歩いている ちょい洒落た 革のバッグから マイカップを 取り出す。これが ここでのルーティーン。
と 同時に マスターがびっくりするぐらいの 反応で  言った。
アラッ、 今回のは 小粒の赤 又 粋ですねー。
ウーン ちょっと生意気そうなんだけどね!と場違いな赤をごまかしながら マスターに手渡す。
まだまだ 音はうるさく 耳を打つが これがいつもの 助走。ドラムやピアノの 激音を
身体の あちこちで 受け止めながら なだめる。待て待て待て。
程なく いつものウエイターの女のコが こぼれる位コーヒー入ったカップを テーブルに置く。
この赤 可愛いですねー 何が 生意気なんですかー。
大音響に助けられて ほほえみながら うんとだけ 返した。
可愛い子 なんだけど 今は 話したくないんだ。
そうして おもむろに ポケットから 文庫本取り出す。
これも ルーティーン。
たばこの二本めの 終わりぐらいから よく知ってる 変化が
やってくる。あれほどうるさかった音を 身体の 部分部分が
少しずつ 受け止めるようになる。
文庫本の世界に入る頃には 身体の細胞が音の波に反応し
無意識に 足は リズム取っている。
やがて 音は 血 と 同化する。うるさいていう感覚は完璧に消え去っている。
至福の時間。

煙の向こうに何十年前の 私の後ろ姿 
テーブルの上には あのカップ。薄暗いけど照明があたり そこだけ赤、生意気そうというより 場違いな所へ 置かれて
むしろ 恥ずかしそうに 座ってこっちを見てる。